東京高等裁判所 昭和28年(く)39号 決定
所論に基いて、保釈原因を定めた刑事訴訟法の規定をみるに、第八九条においては、請求あるときは同条各号該当事由ある場合の外は保釈を許すべき旨を定め、第九一条第一項においては、勾留による拘禁が不当に長くなつたときは請求又は職権により保釈すべき旨を定め而して第九〇条においては原因につき特に形式的制限を加えず裁判所において適当と認める限り職権を以て保釈をなし得る旨定めている。故に、第九〇条の場合には、第八九条各号に該当するとき又は第九一条第一項に該当しないときと雖も猶汎く職権保釈をなし得るものと解すべきは当然であり、従つて、請求ある場合にも、第九〇条を準用して、職権による場合と同様に、第八九条および第九一条第一項の制限に拘らず、裁判所において適当と認めるときは保釈するを妨げざるものと解するを相当とする。このことは、昭和二三年七月一〇日法律第一三一号による改正前の同法においては保釈事由を第一二六条第一項により「保釈請求アリタルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ」と規定し、その決定につき別段積極的制限を設けなかつたに比し、右改正後においては、前記第八九条および第九一条の如き義務的保釈(請求者がわよりみれば権利的保釈)の規定を新設することにより保釈事由を拡張強化して一層勾留者の人権保護に努めている精神に鑑みるも自ら明らかである。
故に、原決定において単に請求があつたから保釈する旨を記載するに止め保釈の適用法令を明示しないことにより直ちに違法となすべき理由はなく、ただ、同保釈は、請求による保釈として事実上不当なりや否やの点において討究せらるべきものたり得るのみである。
そこで審按するに、被告人については、原決定当時までに勾留による拘禁が必ずしも不当に長くなつたとは断言できず又本件犯罪の罪質、態様、公判審理の経過等に徴し保釈後罪証隠滅の行動に出る疑が絶無とまでは謂い得ないこと孰れも所論のとおりである。然し、記録を査閲すると、被告人は昭和二七年五月三一日以来勾留による現実の拘禁を受けること一〇ケ月余の長きにわたり、その間慢性胃腸炎および神経症等により漸時衰弱の徴候あり且つ原決定の保釈には各種条件が附せられて之により所論の如き罪証隠滅の防止又は召喚による出頭の確保等には相当有効なることが看取できる実状にある。以上の諸点を勘按すれば、本件保釈決定は単に違法ならざるのみならず特に不当の措置とも認め難い。結局論旨は孰れの方面からみるも理由がない。